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1. MBDGsとは

1.1 MBDGsの目的と特徴

MBDGs(Mind-Based Development Goals)は、個人の自己存在感(self-existence awareness)を基盤として、自己理解(self-understanding)と自己承認(self-acceptance)を深め、主体性(autonomy)、ビジョン(vision)、多様性の受容(acceptance of diversity)を高める教育プログラム である。

本プログラムの目的は、個人が自分に対して愛着と信頼を持ち、「やればできる!」という気持ちで行動し、充実感のある状態(Flourishing)を実現することにある。

1.2 MBDGsの位置づけ – Flourishingやポジティブ心理学との関係

MBDGsは、ポジティブ心理学や幸福学(well-being studies)の研究成果を基盤としており、特に**「Flourishing(充実した生き方)」の概念と強く結びつく。

Flourishingは、ポジティブ心理学者のキー(Keyes, 2002)やフレドリクソン(Fredrickson, 2001)らが提唱した概念であり、単なる快楽的幸福(hedonic well-being)ではなく、「人が自分の可能性を最大限に発揮し、社会的・個人的に意義のある生き方を実現する状態」 を指す。

このFlourishingの要素とMBDGsの要素を対応させると、以下のようになる。

Flourishingの要素(Keyes, 2002)MBDGsの要素
自己受容(Self-acceptance)自己存在感(self-existence awareness)
人生の目的(Purpose in life)ビジョン(vision)
自律性(Autonomy)主体性(autonomy)
環境のマスタリー(Environmental mastery)自己理解(self-understanding)
ポジティブな人間関係(Positive relations)多様性の受容(acceptance of diversity)


このように、MBDGsはFlourishingの理論と親和性が高く、個人が持続的に幸福を実現するための教育アプローチとして有効であることが示唆される。

1.3 MBDGsが重視する「自己存在感・自己理解・自己承認」の重要性

MBDGsでは、以下の三つの要素を土台として、個人の主体性やビジョンを育む。

(1)自己存在感(Self-existence awareness)

  • 無条件で自分の存在価値を認めることが、幸福やより良い状態の基礎になる。
  • これはポジティブ心理学の「自己受容(self-acceptance)」や、自己決定理論(Deci & Ryan, 2000)の「有能感(competence)」に対応する。

(2)自己理解(Self-understanding)

  • 自分の特徴や価値観、乗り越えた過去と今の強みの繋がりを深く理解することが大切である。
  • これはエモーショナル・インテリジェンス(Goleman, 1995)の「自己認識(self-awareness)」に通じる。

(3)自己承認(Self-acceptance)

  • 過去の自分の努力を認め、自分の存在そのものを肯定することが重要である。
  • これは「自己肯定感(self-esteem)」と類似するが、外部の評価に依存しない内発的な自己承認 に重点を置く。

1.4 自己存在感を基盤とした成長プロセス

MBDGsでは、自己存在感が確立されることで、自然と自己理解が深まり、自己承認が可能になる。

その結果として、以下のような成長プロセスが生じる。

(1)自己存在感が確立される → 主体性が生まれる

  • 自分の価値を確信できると、外部からの承認に依存しない「本当の主体性」が生まれる。

(2)主体性が確立される → ビジョンが形成される

  • 自分自身の価値観や強みを理解することで、自然と自分の目指したい方向(ビジョン)が見えてくる。
  • これにより、利他的な視座も持ちやすくなる。

(3)ビジョンが確立される → 多様性の受容力が向上する

  • 自分のビジョンを持つことで、他者の異なる価値観も受け入れやすくなる。

(4)多様性の受容力が高まる → 自然と協調性やコミュニケーション能力が向上する

  • 異なる価値観を尊重できることで、他者と建設的な関係を築けるようになる。

このプロセスは、単なる知識やスキルの習得ではなく、個人の内面的な変化(Transformative Learning) を伴うため、持続的な成長につながる。

2. MBDGsの必要性 / The Necessity of MBDGs

2.1 社会課題 / Social Issues

(1) 日本における自己肯定感の低さ、生産性・創造性の課題/Low Self-Esteem, Productivity, and Creativity in Japan

日本の若者は国際的に見ても自己肯定感が著しく低い。内閣府(2021)の調査によると、「自分に価値がある」と感じる日本の若者の割合は、欧米諸国と比較して圧倒的に低い。この傾向は、社会的な成功や成果に依存する「条件付きの自己肯定感」に基づいていることが原因の一つと考えられる(辻, 2020)。

また、日本の労働生産性はOECD諸国の中で低い水準にあり(日本生産性本部, 2022)、創造性を必要とする分野においても国際競争力が低下している。これには、主体性の不足が深く関与しており、教育において「正解を求める学習」が重視され、個人の内発的動機づけが育ちにくい環境が要因として挙げられる(Ryan & Deci, 2000)。

MBDGsは、自己存在感を基盤とした自己理解・自己承認のプロセスを通じて、内発的動機づけを高めることを目的としている。これにより、主体性の向上が促され、日本社会における生産性・創造性の向上に寄与する可能性がある。

(2) 主体性が30年以上教育課題とされている現状/The Persistent Issue of Autonomy in Education for Over 30 Years

日本では1980年代以降、主体性を育成する教育の必要性が叫ばれ続けている。学習指導要領の改訂(文部科学省, 2020)においても、「主体的・対話的で深い学び」が強調されているが、現場では依然として受動的な学習が主流であり、主体性の育成には課題が多い。

特に、日本の教育現場では「評価」が重視され、子どもたちが他者の期待に応えることに重点を置く傾向がある。その結果、「主体性を発揮すること」よりも「評価されること」を優先し、自らの意思で行動する機会が制限されている。この問題を解決するためには、評価の枠組みを超えた、自己存在感を基盤とした主体性の育成が必要である。MBDGsは、その根本的な解決策としての役割を果たすことができる。

(3) 国際的な課題(倫理観・リーダーシップ・戦争や差別)/ Global Challenges: Ethics, Leadership, War, and Discrimination

現代社会では、リーダーの倫理観の欠如が問題視されており、それが戦争、差別、不平等を助長していると指摘されている(UNESCO, 2023)。リーダーシップにおいて重要なのは、単なる成功志向ではなく、自己存在感に基づく「内発的動機づけ」と「利他的視座」の確立である(Goleman, 1995)。

MBDGsは、自己存在感の確立を基盤に、主体性とビジョン、多様性受容を育むことで、倫理的なリーダーシップの形成を支援する。これは、単なるスキルトレーニングではなく、人間の本質的な成長を促すものであり、社会全体の持続可能な発展に貢献する。

(4) SDGsの持続可能性とMBDGsの関連性/The Relationship Between SDGs and MBDGs

SDGs(持続可能な開発目標)は、環境・経済・社会の持続的な発展を目指しているが、現実にはその達成が困難であると指摘されている。特に、戦争や経済格差の拡大など、SDGsの目標と逆行する事象が増えている(UNDP, 2023)。

MBDGsは、持続可能な社会の基盤として「個人の内的成長」を重視する点で、SDGsと密接に関連している。持続可能な社会を実現するには、個人が自らの価値を認識し、主体的に社会に貢献する意識を持つことが不可欠である。MBDGsは、その根幹となる「自己存在感」「自己理解」「自己承認」を促進することで、SDGsの達成を下支えする役割を担う。

3. MBDGsのプログラムと効果 / MBDGs Program and Its Impact

3.1 プログラムのテーマ

MBDGsは6つのゴールを設定し、ワークショップ形式でプログラムを実施する際のテーマとしている。

Goal.1 主体性の確立
Goal.2 ビジョン
Goal.3 多様性の受容
Goal.4 協調性と協働
Goal.5 成長サイクル
Goal.6 次世代へ繋ぐ

ワークショップは、Goal.1からスタートする。

3.2 MBDGsのプログラム構成 / Structure of the MBDGs Program

MBDGsは、単なる座学やスキル研修ではなく、参加者が「自己存在感」「自己理解」「自己承認」を深め、持続的な成長を促すことを目的とした包括的なプログラムである。そのため、ワークショップ形式を基本とし、体験を通じた学びを重視する。

プログラムは 「指導者層向け」 と 「一般受講者向け」 の2段階に分かれている。

(1)指導者層向けプログラム(MBDGs Facilitator Training)

  • 目的:指導者(教育者、企業管理職、コーチなど)がMBDGsの理論と実践を深く理解し、自らが体験した上で他者に伝えられる状態になること。
  • 内容:

・MBDGsの理論(心理学・脳科学の観点からの解説)
・自己存在感を高めるワーク(マインドフルネス、リフレクションなど)
・他者の成長を促す対話技術
・実践トレーニングとフィードバック
・期間:数日間~数週間の集中講座

(2)一般受講者向けプログラム(MBDGs Workshop)

  • 目的:参加者が自己理解を深め、自己存在感を確立し、主体的に行動できるようになること。
  • 内容:

   ・自己認識を高めるワーク(価値観の明確化、ライフストーリーの振り返り)
      ・自己承認を促す実践(ポジティブフィードバックの習慣化、セルフコンパッション)  
      ・目標設定と実行計画(主体性の発揮を促す)
      ・期間:5日間の集中講座

この2段階のプログラムを通じて、組織や社会にMBDGsの理念が浸透し、持続的な変化が生まれる。

3.3 MBDGsの効果 / The Impact of MBDGs

MBDGsの実践による効果は、教育・スポーツ・企業研修 の各分野で検証されている。

(1) 大学講義での検証 / Implementation in University Courses

MBDGsを取り入れた大学の授業では、学生の自己理解と主体性が向上した。例えば、ある大学での実験的導入では、受講後に以下のような変化が見られた(2023年度データ)。

• 「自分の価値を認識できるようになった」 と回答した学生が80%以上
• 「自分の意見を発信することに自信がついた」 学生が70%以上
• 「学習意欲が高まった」 学生が85%以上

以下の質問では特に大きな変化が見られた。

• 「叶えたいビジョンがある」と回答した学生が67%から88%に増加
• 「頑張っている自分を労う」と回答した学生が47%から73%に増加
• 「私はやれば出来ると思う」と回答した学生が64%から81%に増加
• 「自分にしかできない仕事や役割があると感じる」と回答した学生が56%から77%に増加

この結果は、MBDGsが学生の内発的動機づけを高めることに貢献していることを示唆している。

(2) スポーツ分野での応用 / Application in Sports

MBDGsを活用したスポーツチームでは、選手のメンタル面の成長が顕著に見られた。特に、試合中の集中力向上や、自信の向上 に効果があり、チーム全体の士気向上にも寄与した。

具体的な事例として、ある中学野球チームに導入した結果:

• 選手の自己肯定感が平均20%向上
• 試合中のメンタルコントロール能力が改善(コーチの主観評価)
• チームワークが強化され、団体競技としてのパフォーマンス向上
• セミナーを受講してプログラムを理解した保護者が、家庭で良いフォローができた(保護者の主観評価)

(3) 学習塾での応用 / Application in Cram Schools

小学生から大学生までが通う学習塾で、MBDGsを活用したマインドサポートを行ったところ、生徒の明るさや自信の高まりが顕著に見られた。

生徒の変化を見た塾講師への聞き取り調査結果:

• 生徒が自分から話しかけてきたり、質問するようになった
• 自分のことを堂々と話せるようになった
• 自分の良い所に目を向けるようになり、自信がついているようだ
• 学習に対する姿勢が積極的になった
• 希望の仕事など、将来の話をするようになった

(4) 企業研修での効果 / Impact in Corporate Training

MBDGsを企業研修に導入した結果、社員のエンゲージメント向上やリーダーシップの発揮に顕著な変化が見られた。ある企業での導入データ(2023年)では:

• 「仕事へのモチベーションが上がった」 社員 82%
• 「チームメンバーとのコミュニケーションが向上した」 75%
• 「主体的に業務に取り組む姿勢が生まれた」 70%

このように、MBDGsは 単なるスキルトレーニングではなく、個人の内面的な変化を促し、組織全体の活性化につながる ことが示されている。

3.3 学術的な検証データの蓄積と今後の展望 / Academic Validation and Future Prospects

現在、MBDGsの効果をより科学的に検証するため、心理学的尺度を用いた評価研究 が進行中である。今後の展望として:

• 大規模なデータ収集を通じた効果の実証
• 脳科学やポジティブ心理学の観点からの理論的裏付け
• 企業・教育機関との共同研究による応用範囲の拡大

これにより、MBDGsの実践的な有効性を証明し、より多くの組織・教育機関への導入を促進することを目指している。

4. MBDGsの背景と開発者の視点

4.1. MBDGsが生まれた背景

MBDGsの開発者は、全日本空輸株式会社で約18年間社内研修等を担当した後退職し、学校や企業で研修講師として活動する中で、教育現場や人材開発現場の主体性を高めようとする日本のやり方に疑問を抱いた。何十年も日本の生徒の主体性が問題であり続けていること、主体性に最も必要な自己存在感を高めるカリキュラムが不十分でありながら、承認欲求を満たすためのカリキュラムは過剰であること、そして新しい教育プログラムの存在や提案に対して閉鎖的であることに問題意識を持った。

国際学力テストでは日本の若者の学力は世界上位にもかかわらず、自己肯定感や生産性が低いことに矛盾を感じ、その原因として、戦後教育で日本人は日本の良さに目を向けないよう育てられたこと、その大人が社会を創り、自己肯定感の低い後生を育てる下地ができていること、さらに、自分の存在価値を絶対的に認める神などの存在を信じるような宗教の定着が他国より低いこと、日本人が美徳とする「謙虚/謙遜」によって、自分の価値を過小評価する国民性であること、変化を嫌う大人が社会を築いていることなどが挙げられる。

これらの問題意識を抱きながら、日本社会で研修講師として活動する中で、理想の教育を追求するも変化を生み出す局面で壁にぶつかり、自分自身の主体性や利他的な視座、多様性の受容力、協調性を見つめ直す必要性を感じ、その結果としてMBDGsのプログラム開発に至った。

4.2 MBDGs開発者の評価

MBDGsの開発者は、その革新的な教育プログラムを開発しようとする姿勢が海外の教育関係者から評価され、2023年に教育界のリーダーシップ賞(Outstanding Leadership Award 2023/Education 2.0)を受賞した。さらに、英国議会貴族院でGlobal Power Leader 2024として表彰され、その取り組みが高く評価された。

結論

MBDGs は単なる理論的枠組みではなく、教育、社会、企業の重要な課題に取り組む、実践的で研究に裏打ちされた変革的なプログラムです。MBDGs は、自己存在の認識、自己理解、自己受容を促進することで、自律性、ビジョン、多様性の受容の強固な基盤を築く。

このプログラムは、次のことに大きく貢献することが期待されている。

  • 教育と職場における自尊心、創造性、生産性の向上
  • 急速に変化する世界における倫理的で先見性のあるリーダーシップの育成
  • 内面の発達を通じて SDGs の長期的な持続可能性をサポート

MBDGs をさらに学術的に検証し、実際の応用を通じて拡大することで、個人の成長と社会変革を世界規模で再構築する可能性がある。