Contents

検証対象・方法など

  • 約4か月間、1回90分のワークショップを12回実施
  • 経営を学ぶ大学生1~2年生4クラス146名に調査実施(当レポートは第1クラス39名分データを反映)
  • 受講者のうち約95%が日本人学生
  • 基本的に英語で実施し、日本語で補足説明(グローバル環境で活躍できる人財育成がテーマのため英語使用)
  • 内容は主に主体性の確立(Step.1が自己理解、Step.2は自己承認、Step.3は自己信頼パート。ビジョン・多様性・協調性については一部触れる場合もあった)
  • アンケート調査を2回実施(ワークショップ初回と最終月に実施)
  • プレゼンテーション、グループワーク、グループディスカッション等を取り入れた

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MBDGs導入の背景

当該大学や海外の大学で経営・グローバルビジネスを教えてきた教授Dr. Joe Hugが、長年抱き続けてきた問題意識である「学生に経営やスキルを教えても、それを活かすマインドの養成が不可欠である」という課題を、体系的にプログラム化されたマインド教育によって解決できるのではないかと考え、MBDGsワークショップを自身が所属する経営大学の学生の必須科目として導入することを大学に提案しました。MBDGsの詳細を知った大学責任者によって導入が決定されました。

効果詳細

ワークショップ初回と最終月に実施したアンケート結果は以下の通りです。左のグラフが初回アンケート結果、右のグラフが2度目のアンケート結果を示しています。項目ごとに、トレーナーの所感を記します。

1.私には能力があると思う

当初は、自分の能力を自覚しきれていない人が46%いました。また、自分には「能力がない」と答えた人は10%いました。2度目の調査では、「能力がない」と答えた人は0%に減り、65%の人が「能力がある・とてもある」と答え、54%から11%上昇しました。

ワークショップは自己理解ワークから始まりました。自己理解を深めたり、周囲からも意見を聞き、自分を知っていきます。「自覚しながら良い所を認識する」という手順は、その後のワークやトレーナーとの関わりの中でも継続しました。

2.私には価値があると思う

主体性の確立ワークショップにおいて、最も意味深く重要な成果は、この部分です。自己承認力の基礎になる自己存在感については、自分に価値があると考える人は、54%から69%に増えましたが、これは数値だけの単純比較はできません。

自己承認ワークでは、特に日本人受講者の特徴として、「自分の価値」「人の価値」という言葉自体に抵抗をもつ人が多くいます。実際、ワークショップ開始前の時点では54%の人が「私には価値がある」と答えましたが、ワークショップで自己存在感(自分や人の存在価値に対する意識)を身近なこととして考えるワークを行った際は、当初7割近くの人が抵抗を感じていました。当該ワーク中に聞かれた受講者の感想では「人や自分の”価値”という言葉を口にすることに抵抗がある」「価値は誰かが決めるものではない」「公の場で人の価値について語るのはタブーではないか」という声が聞かれましたし、ワークに取り組む様子からも多くの人が戸惑っていることが分かりました。つまり、ワークショップ開始前の段階で、文字だけで「あなたには価値があると思うか」と聞かれれば、「ある」と答えたものの、実際に自分の価値や人間の価値について具体的に考える局面になると、抵抗を感じた人が非常に多かったということです。

一方、2度目の調査で「私には価値がある」と答えた69%は、「自分の価値・人間の価値」というものにワーク内で充分向き合った結果として出た数値です。自己存在感に向き合う中で、思考や感情を整理するのに戸惑った人、トレーナーに対して混乱や疑問をぶつけた人もいました。また、中には、「使用する言葉を”人の価値”から”人の良さ”など、抵抗が少ない言葉に変えてはどうか」という提案をした参加者もいました。しかし、ここは敢えて”価値”という言葉を使うことで出る効果が大切なので、言葉は変えずに進めました。

結果として、多くの人が葛藤や違和感を感じたものの、もっとも効果が出た部分だったというのがトレーナーの感想です。数値で言えば15%の上昇に過ぎませんが、今回のワークショップでの一番の成果はこの部分です。主体性の確立のコアとなるのがこの自己存在感ですが、ここでしっかりと、何度聞かれても「自分には価値がある」「人間にはそもそも価値がある」と答えられる状態に成長することが、主体性の確立には不可欠です。

自己存在感は、幼少期から培うような意識であると思われたり、心理学の専門家からは外的要因で高めきれるものではないと捉えられることがあります。しかし、今回の調査によって、体系的にプログラム化された数回のワークショップによって、受講者が少なくとも自己存在感を高めるキッカケと方法の理解を得たことが分かりました。

3.私は自分に自信がもてる

受講者の多くは起業を目指す学生ですが、必ずしも自分に自信がある訳ではなく、自信のなさを埋めるために大きなことを成し遂げなければならないという焦りを抱えている人も多くいました。

自分に自信がもてると答えた人は、41%から58%に増加しました。「自信がない」と答えた人は、13%から4%に減りました。

ワークショップ内で新たなスキルを身につける機会はなく、自分自身に対する認識を変えていくことで、自分に自信をもてるようになっていきます。そのために、自己理解パートでは過去の掘り下げ、過去と今の自分を繋げる、という作業を丁寧に行うことで、過去の消化度を高めました。また、成長する為に真に必要な意識は、自分の足りない能力に目をやり自分を矯正する意識というより、自分の頑張りを自分自身が認めることで生まれる向上心によって自己成長を望む意識です。表現は極端かも知れませんが、自己否定・自己肯定のどちらから生まれても成長意欲に違いはなく、どちらも素晴らしい意識ですが、成長の安定・持続性を重視する場合は後者が理想です。その意味でも、自己承認パートは非常に重要な位置づけにあります。

4.私はやればできると思う

「私はやれば出来ると思う」という部分は、自己理解と自己承認を経た、自己信頼パートによって得られる効果です。やればできると自分を信頼する人は、64%から81%に増えました。4ヶ月間のワークショップでは、自己信頼パートは一部のみ実施しましたが、それでも大きな成長が見られました。

Step.3の自己信頼パートが一部実施に留まった理由としては、Step.1&2の自己理解と自己承認が予想以上に必要だと感じる学生が多かったためです。しかし、自己理解と自己承認パートを丁寧に行ったことで、結果として自己信頼が高まりました。自己信頼パートをすべて実施した場合は、受講者が自分を成長サイクルに入れる方法の体得まで進む予定でした。

5.私はよく頑張っていると思う

既に頑張っている自分に気がつき、その努力を自分で認めている意識を計る設問「私は良く頑張っていると思う」では、頑張っていないと答えた人が、39%から19%に減りました。主に、自己理解と自己承認パートで自分の過去を丁寧に思いだし、整理するワークによって得られた結果です。

実際、自分の過去に後悔や不足感を感じる人は多くいましたが、ひとつの過去の出来事を捉える視点を多面的に変えることで、同じ過去を「後悔・不充分」から「頑張った自分への労い・今の自分の強みをもたらした経験」という位置づけに変えることができた人が多くいました。これも自己承認・過去の消化度が現れる項目ですが、過去を後押しに変えることができた人が多くいました。

6.私の能力は活かされていると思う

この設問は、現時点で「私の能力が活かされていると思うか」という質問で、「活かされている」と答えた人は、42%から54%に上昇しました。受講者は起業を目指す学生が多いですが、実際の事業内容は未確定という場合が殆どのため、現時点では、まだ自分の能力は活かされる前の段階だと認識している人が多かったように思います。

7.私の能力が活かされないまま終わるわけがないと思う

一方、今後について「自分の能力が活かされないまま終わるわけがないと思う」と答えた人は、51%から69%に上昇し、「活かされないと思う」と答えた人は、21%から4%に減少しました。これは、自己理解と自己承認を経たことで、未来の計画が未確定なので焦りを感じるという意識から、未来が未確定でも自分の能力は必ず活きる時が来るという意識に変化した結果です。この考え方が彼らが彼ら自身に忍耐力をもたらすことを可能にします。

8.過去の経験が今の自分の良さに繋がっていると思う

これは、過去の消化度を表わしています。過去の主に苦い経験が今の自分の能力や魅力に繋がっていると自覚した人は、77%から92%に上昇しました。過去の消化度を高めるワークの自己ワークパートでは、受講者によって異なる過去の消化度を踏まえ、無理をしてまで過去に向き合うことは勧めません。他の受講者のワークを見るだけでも充分に効果は出ます。実際、当初は過去に向き合わなかった人も、4ヶ月の間で、自分のタイミングで過去の消化度を高めるポイントは用意されているので、92%という結果に繋がりました。

9.自分の価値観に誇りをもつことができる

自分の考えや感性に誇りや自信をもつことが出来る人は、62%から81%に上昇しました。当初は、自分の考えを表現する際、周囲の意見を聞いてから発言するという姿勢が多く見られましたが、自分の考えを自信をもって表現することができるようになる人が増えました。これは、ワークショップ冒頭で伝える「発表のしかた、聞き方」のルールが、行動化のみならず、意識化にも大きく繋がっていることが影響しています。

10.疲れたり気が向かない時は、自分自身に対して堂々と休んでいる

この設問は、自己管理能力と休息の質を計るものですが、休むことに罪悪感を感じる人が、21%から8%に減少しました。休むことへの罪悪感は、特に日本人受講者が抱えやすく、学生より社会人で顕著に見られます。自分の体の声や、心の声に従うことが人財としての生産性・持続性・創造性にいかに影響を与えるかということを論理的に理解することで、罪悪感は減少しますが、これは自己理解と自己承認を経た場合に限ります。体を休めることが自分のためだと頭では理解していても、充分に休めない(休息の質が劣る)のは、休んでしまっては自分の価値が下がるという焦りが隠れているからです。

11.自分の未来はどんどん充実したものになると感じる

自分の未来に可能性を感じる人は、59%から77%に上昇しました。ワークショップでは、主体性の確立後のパートである「ビジョン」についても少し触れ、理想のビジョンを考える機会を1ヶ月目と4ヶ月目に設けました。ただし、ビジョンは本来、主体性の確立後に自然とマインドから湧き出るものなので、今回の主体性ワークショップでは、ビジョンがある人は描き、ない人は堂々と「今はない」と書くことを勧めました。最終的には全員がビジョンを描きました。今後ビジョンのワークショップを受講し、ビジョンへの理解が深まれば、この数値は更に上がると予想されます。

12.自分の可能性を試したいと思う

自分の可能性を試したいと思う人は、79%から89%に上昇しました。11%の人は、自分の可能性を試したくない、又は、ふつうと回答しましたが、自己理解と自己承認パートによって、必ずしも挑戦や起業という道が今の自分にとってのベストではないと発見した人もいました。

13.「挑戦」と聞くと怖さよりもワクワクが勝つ

これは自己信頼度を測る設問ですが、挑戦と聞いて恐怖や心配よりも前向きな意識が勝つ人は、61%から81%に上昇しました。ここでは、挑戦という言葉に恐怖や焦りなどの感情を抱くことも大切であることや、そのような感情を抱く自分自身を認識し認めることが大切だと理解しました。

14.これから挫折や苦労は当然あると思うが、乗り越えられると思う

これも自己信頼度を測る設問ですが、困難を乗り越える力が自分にはあると思う人が、64%から73%に増えました。これは、自己理解と自己承認パートによって、自分の経験や特徴を多面的に捉える習慣が身につきつつある結果と捉えることができます。

15.自分のことを大切に扱っている自覚がある

これは、自己承認度・自分への労い度を測る設問です。自分を大切に扱っている自覚がある人は、56%から65%に上昇しましたが、これには数値に隠れた背景があります。

ワークの中で、「自分の内に秘めた希望や心の声にどれほど自分自身が気づいているか・応えられているか」という部分に向き合った際、自分の真の希望を認識出来ていないと感じた人が多くいました。2回目の調査での回答は、自分の真の気持ちに向き合い切れていなかったことを自覚し、向き合うワークを経た上で、今の自分がどこまで自分を大切に扱っていると評価できるかということを問うた結果です。

16.頑張っている自分をねぎらっている

自己承認の一部を表わす自分の頑張りを認める・自分を大切に思っている意識を計る設問では、自分への労いが定着しつつあることが示されました。自分を労っている人が、47%から73%に増えました。

自己承認力では、トレーナーや他の受講者からの承認(評価・励まし・良い面の指摘など)を得ることなく、自分一人の意識で自分の頑張りや経験を評価する習慣化が重要になります。

17.人の意見や人からの評価より、自分のきもちに正直になれる

当初、周りに流されることがあると自己認識する人が多くいましたが、自分の真のきもちに気づくワークと自己表現を繰返し行ったことで、そもそも自分のきもちに気づくことと、そのきもちに沿って行動できる人が増えました。数値は、49%から73%に上昇しました。

18.起業したい

起業に挑戦したいと答えた人は、69%から84%に上昇しましたが、一方で、自己理解を進める内に起業願望が自分の真の望みではないと気付いた人がいました。

19.今の自分は、やりたいと思う仕事がある

自分のやりたいことが明確にある人は、41%から58%に増えました。やりたいことがないと答えた人は、15%から8%に減少はしましたが、受講者は、やりたいことを無理に急いで見つける必要がないことや、自己理解と自己承認が深まることで自然と湧き出るタイミングが必ず来ることをしっかりと理解したため、「不安に満ちた15%」と「自信をもってその時を待つ8%」という違いがあります。

20.自分にしかできない仕事や役割があると感じる

この設問は、自分の存在価値をどれ程自覚しているか、自分のポテンシャルを自己信頼できているかを計るものです。自分にしか出来ない仕事や役割があると感じる人は、56%から77%に上昇しました。主体性の確立ワークショップに続くビジョンのワークショップを受講することで、この数値は更に上昇すると予想されます。

21.具体的なことが想像できなくても、何かしら挑戦はするつもりだ

自分の可能性を試したい・挑戦したいと答えた人は、90%から85%に減少しました。これは、何かしら挑戦をしたり、大きなことを成し遂げなければ自分のことを認められないと感じる人が減ったことを表わしています。挑戦や起業が自分の価値を高める方法では必ずしもないということに気がついた結果です。周りが起業を目指す学生ばかりという環境の中で、挑戦をしなければいけないと自分を追い込んでいた人もいましたが、自分が真に目指すことに向き合った結果だと思います。

しかし、これが最終的な挑戦意欲であるとは限りません。4ヶ月間を掛けて自己理解を深め、自分を縛っていた義務感や焦りから一旦開放されたため、自分の意識をリセットし自由にしたのが2度目のアンケート結果と捉えることができます。意識を開放した後は、自分が真に求める道を自由に模索することが可能になるため、方向性が見え始めた段階で挑戦意欲が湧き出ることが予想されます。そのために、主体性の確立ワークショップ後に今後実施されるビジョンワークショップが、タイミング良く受講者の挑戦意欲を後押しする流れとして用意されています。

22.叶えたいビジョン(理想の未来)がある

今回は主体性の確立ワークショップであり、ビジョンには殆ど触れていませんが、主体性が確立するだけで、ビジョンを抱く人は67%から88%に上昇しました。

23.叶えたいビジョン(理想の未来)の中では、自分はとても充実している

この設問では、抱くビジョンをどこまで自分ごととして捉えているかを計りました。ビジョンを叶えている未来の自分を想像できる人は、59%から79%に上昇しました。繰り返しになりますが、当ワークショップは主体性の確立がテーマのため、ビジョンパートには殆ど触れていない段階での結果です。

24.叶えたいビジョン(理想の未来)の中に、自分以外の人の幸せが含まれている

今後実施予定のビジョンのワークショップでは、利他的なビジョンを抱く重要性についての理解を深めますが、今回の主体性の確立ワークショップでは触れていません。しかし、自己理解・自己承認・自己信頼が高まることで、他者への興味関心・他者受容力が湧き出てきます。そのことを証明する形になったのが、この設問です。

叶えたいビジョンの中に自分以外の人の幸せが含まれる人は、69%から84%に上昇しました。今後、ビジョンパートを受講し、ビジョンの定義・効果・種類・質についての理解を深めれば、この数値は更に上昇するかもしれません。

25.叶えたいビジョン(理想の未来)を想う時、具体的なイメージ(画像や映像のような)が頭に浮かぶ

理想の未来・ビジョンを描く力の強さを計る設問です。ビジョンを文字として抱くのではなく、心が動くようなイメージとして抱く人は、48%から77%に上昇しました。これも、ビジョンを具体的なイメージとして抱くことの効果や方法については、一切触れていない段階での数値です。

26.将来の自分は、理想通りの実績や評価、収入を得ていると思う

これは、自分自身に対して、理想の未来を得ることをどこまで許しているか・制限を掛けていないかということを計る設問です。自分は理想通りの未来を生きていると思う人は、49%から69%に上昇しました。これは、自分の能力やビジョンを自覚するだけでは数値の大きな上昇は期待できません。大切なのは、自分のポテンシャルを誰よりも自分が自覚しているという安心がベースになることです。

27.ビジョンは仲間と力を合わせて叶えていきたいと思う

主体性の確立とビジョンのワークショップに続けて行うのは、多様性と協調性のワークショップです。今回は多様性と協調性には殆ど触れていませんが、ワークショップ内で他の受講者や、これまで出会ってきた人たちとの関係性を前向きに捉える機会があることで、他者受容力・協調性に繋がる意識に向上が見られました。

このような、主体性が確立することで、他の要素(ビジョン意識・多様性の受容力・協調性)が自動的に溢れ出るメカニズムであることを、MBDGsではSpringing Up Mechanism(湧き出るメカニズム)と呼んでいます。

ビジョンを仲間と叶えていきたいと答えた人は、74%から81%に上昇しました。

28.ビジョンや目標に優劣はなく、自分が抱くビジョンはどのようなものでも素晴らしいと思う

これは、他者と自分を比較し過ぎることなく、自分の考えに自信をもてるかを計る設問で、69%から89%に上昇しました。この意識は、同時に多様性受容力と協調性に繋がる意識に結びつきます。

29.ビジョンを叶えるために、自分の力を発揮できると思う

前述にもありましたが、自分のポテンシャルを自分が一番自覚しているかを問う設問を複数設けています。自分がビジョンを叶えるために力を発揮できると思う人は、69%から92%に上昇しました。

30.自分と異なる考えをもつ人ともっと接したいと思う

これは、主体性の確立が協調性に繋がる意識にどれ程繋がったかを計る設問です。自分と異なる考えを持つ人への興味をもつ人が、56%から69%に上昇しました。多様性と協調性のワークショップは未実施ですが、主体性の確立が両要素にプラスの影響を与えていることを示しています。

31.理解できないような言動を取る人にも何か理由があるのだろうと考えることがよくある

これも、主体性の確立が、多様性の受容力と協調性へ繋がる意識にどれ程影響を与えているかを計る設問です。理解できない言動を取る人が抱える事情を想像することが良くあると答えた人は、38%から50%に増えました。

32.自分の国を誇りに思う

多様性ワークショップで行う、自国を語るワークを一部取り入れました。これは、自国に対する自分なりの考えを語ることをポイントとしたワークであり、自国を誇りに思ったり、自国の良い所を認識させるためのワークではありません。

しかし、結果として、自国の良さに改めて目を向ける受講者が多く、自国への誇りを感じる人が、69%から81%に上昇しました。

ワークショップでは、海外の価値感を学びながら、生産性を下げる要因となっている日本人の特徴に初めて気づいたという受講者も多くいましたが、結果としては、日本のマイナス面も理解しながら良い面を誇りに思う人が多く生まれました。この結果は、ワークショップ冒頭で確認する「発表のしかた、聞き方」のルールを、受講者が充分理解・行動化できていることも大きく影響しています。

33.英語を話すことに恥ずかしさや苦手意識がある

今回のワークショップは、基本的に英語で実施しました。受講者の英語力は上級ではないため、日本語で補足をしながら進めました。英語を話すことに対する苦手意識を持つ人は、66%から54%に減少しました。

日本人受講者に対して英語でワークショップを行う効果は、英語力向上のためだけではなく、自分の考えを端的に表現する習慣化において特に見られます。ただしこれは、英語力が中程度以上ある受講者に対して効果的です(単語と文法をつなぎ合わせて自己表現できる場合。例:I want to do …, because I like … 等という表現)。一方、英語力が低度の場合(伝えたい単語が出てこない場合)は、英語で実施されるワークショップを受講しても、英語力も自己理解も深まりにくいでしょう。

34.人に自分のことを話したり、人の話を聞いて、関係を深めるのは楽しいと思う

これは、自己表現や他者理解の楽しさをどれ程感じているかを計る設問です。4ヶ月のワークショップを通して、多くの自己表現・他者理解の機会に触れることで、最終的に89%の人が楽しいと感じており、「とても楽しい」と答えた人は49%から58%に上昇しました。

元々人とのコミュニケーションが苦手だと見受けられる受講者は約3割を占めていましたが、ワークでの積極性向上が顕著だったのはその人たちです。最終月の自己表現プレゼンで、自分の殻を破り、他の受講者から高評価を得ていた多くも、その人たちです。

受講者の声

  • 自己肯定感が上がった
  • もっと自己主張をしていきたいと思った
  • 日本や自分の価値観は世界から見たら異端なものだと思った
  • 変化を恐れない
  • もう少し自分の考えで行動してみるべきだと感じた
  • 授業を通じて自分を省みる機会があったのでとっても良かったです
  • より自分に自信を持った
  • 自分がやろうとすることに、もっと自信をもとうと思った
  • 英語は自信をもって話したほうがいい
  • 自分の性格がもう少しでいいから前向きになれるといいなと思います。しかし授業を通して別にこのままの自分でいいと少しは思えたので心が軽くなりました。
  • 人見知りなところを変えたい。授業を通して自己分析ができたので悪いところは改善して、良いところは伸ばしていきたい。
  • まだ、自分のことを理解出来ていないところもあるのでちゃんと自己認識をする
  • もっと自分の過去を受け入れようと感じた。
  • 楽しいことを理由をつけて我慢するな!
  • 自分から自主的に発言する力を身に着けたいと思いました。
  • 少し英語が話せるようになった
  • 挑戦に恐怖を感じすぎないこと
  • 頑張りすぎて無理しちゃうところが良くないと思う。
  • 自分らしさを大切にしようと思う
  • I don’t want to change myself.
  • I changed my mind by taking this class.
  • 自分をみとめられるようになった
  • もう少しコミュニケーションを取ることが出来る
  • 逃げる場所を作る
  • 英語力だけでなく積極性が身についた

トレーナー所感

今回、ワークショップの効果を改めて検証しましたが、主体性の確立に必要な3つのステップ(自己理解・自己承認・自己信頼)全てに於いて効果を確認。また、主体性がある程度確立することにより、ビジョン意識・多様性の受容力・協調性は溢れ出るメカニズムであることも確認できました。

引き続き、主体性以降のワークショップであるビジョン意識・多様性の受容力・協調性を行うことで、主体性が更に確立され、また、持続安定的なビジョン意識・多様性の受容力・協調性が養われることが期待できます。

スケジュールについて

今回のワークショップは大学の前期履修科目として実施されたため、90分授業を計15回実施し、内3回は他プログラムを取り入れ(社会起業家育成プログラムなど)、MBDGsワークショップは12回実施しました。また、12回のワークショップの内、英語コミュニケーション力向上のためのプログラムに費やす時間は、各回15-20分でした。

今回のワークショップでは、自己承認パートに予想以上の時間を要したため、主体性の確立ワークショップ内の最終Stepである自己信頼パートのすべてを網羅することはできませんでした。

主体性の確立ワークショップに要する時間は、受講者特性にもよりますが、今回は18時間程度でした。内、3つのStep(自己理解・自己承認・自己信頼)の所要時間はそれぞれ6時間程度が目安ですが、今回のワークショップではStep1から順に6時間、9時間、3時間程度でした。ただし、3つのStepは連携しているので、Step3の自己信頼がテーマの回に、Step1の自己理解を深めるなどということは多々ありました。

課題について

ワークショップの効果を最大化するためには、課題への取組みが必要になります。課題は8種類あり、最終課題は自己表現プレゼンでした。

ワークショップが、受講者の自信や自己肯定感に繋がっていることは、課題やプレゼンを見ることで分かりました。自己理解や自己承認を深めるための課題(記述式)では、受講者が自分に向き合っていることや、向き合うことが習慣化していたこと、自分の殻を破ろうと葛藤していることが分かりました。

受講者について

受講者の多くは起業を目指す学生ですが、元々の自己肯定感や自信が高いタイプの学生が多かったとは言えません。劣等感や焦りから起業を目指す人も多く確認できました。このことが、自己理解と自己承認パートが計画より長引く結果に繋がりました。

学生の出席率は非常に高かったですが、全授業に出席した学生は半数以下です。

元々積極性が高い受講者に見られた変化は、自分の意識を安定させるスキルを得ていたことや、他の受講者との関わりにおいて協調性やリーダーシップがある行動が多く見られるようになったことです。彼らは早い段階からワークショップの意味を理解し、ワークショップに参加する大切さを周囲に発信していました。彼らの前向きな成長意欲によって、他の受講者への教育効果が高まったことは事実です。

自己表現プレゼンでは、他者と自分を比較し過ぎることや、自分の足りない面に目を向け過ぎる習慣を改善し、自分や自分の考えに自信をもつ意識や態度が印象的でした。ワークショップ開始頃は、殆ど人と話すことがなく、ワークショップ内での発言や発表にも消極的で、自分の考えをアウトプットすることに強い抵抗をもっていた受講者たちが、自己表現プレゼンでは、自ら手を挙げて発表の番を得たり、堂々と大きな声で自己表現をしていました。

トレーナーについて

トレーナーは、各テーブルを回り、ワークシートを注意深く見たり、発言に耳を傾けるなど、受講者を深く理解しようと努めました。その結果、受講者との信頼関係を築くことができました。信頼関係が受講者の安心に繋がり、ワークショップ効果を大きく後押ししたと思います。

また、トレーナーは徹底して以下のことを意識し、随所で受講者に伝えていました。
・受講者が自分を変える必要はない
・自分に必要な答えやポテンシャルは既に受講者自身の中にある

トレーナーが重視したもう一つのポイントは、受講者の意見はすべて受け入れ、彼らの発言に対して否定的な反応を一度も示さないことです。

受講者との信頼関係が生まれると、受講者はトレーナーと話す機会を増やそうとします。受講者の中には、何かしらの気づきを得たいと思って話す受講者もいれば、不安な気持ちを安心させたくて話す受講者もいます。特に後者の場合でトレーナーが注意したことは、トレーナーが安心を与える存在にならないことです。トレーナーが受講者の不安を和らげるような関わりをすると、依存が生まれ、受講者の成長を妨げかねないので、トレーナーはあくまでも受講者が自分の中にある不安を自分で認識したり、答えを自分で見つけたり、自分の良さに自分で目を向けることが出来るように関わりました。

MBDGsワークショップの効果は、トレーナーが自分自身の主体性の確立に対して、誰よりも熱心に誠実に向き合っているかどうかで左右されると言っても過言ではありませんが、今回改めてそのことを感じる場面が多くありました。特に自己信頼パートでは、多くの受講者の中に生まれる葛藤を目の当たりにしますが、彼らが葛藤を乗り越える力をもっていることを、トレーナーが早期に良く理解していることをベースとしてワークショップは進みます。早期に良く理解するというトレーナーの力こそが、トレーナー自身の確立した主体性から生まれます。今回の受講者は様々なタイプの学生で、中高生時代にスポーツで全国大会に出場してきた学生、ロボコン世界大会に中学生時代から出場し続けた学生、会社を経営している学生など意識高い人も多い一方で、やりたいことがなく、人生や社会に対して投げやりな感情をもっている学生も一定数いました。そのような中でのワークショップには難しいこともあり、トレーナーの主体性が問われていると感じる場面も多くありました。ワークショップや受講者との関わりを通して、トレーナーは勉強機会を多く与えてもらいました。

教材について

主体性の確立パートで使用する教材は12ページ程度あり、基本的には受講者による記入式です。今回は英語版の教材を使用しました。最終月に、受講者は全ページをトレーナーに提出しました。今回は、トレーナーは全員にコメントを添え返却しました。

組織の理解について

今回、MBDGsワークショップが当該大学に導入されたのは、大学側が既にマインド養成の必要性を理解していたからです。ワークショップを導入しようとする大学や組織側が、学生の主体性やビジョン意識などのマインド面に問題意識を持っていない場合、又は、問題意識はあるが組織の改革体制が追いついていない場合は、ワークショップ導入のタイミングではありません。組織側がマインドを養成するカリキュラムの重要性を認識していることがスタートラインです。

今回の導入は、既存学生のマインド向上以外にも、受験生を増やしたいという大学の目標においてもプラスとなると判断されたことも、ワークショップ導入の一因になったようです。

組織の事情にもよりますが、MBDGsは、組織内で数名のトレーナーを育て、将来的にはワークショップを内製化することが、組織の持続発展にとっての理想だと考えています。

ワークショップ見学について

ワークショップ見学は随時受け付けています。ご希望の方はお知らせください。